第10話 新天地


2022.10.09ブログ

お家騒動があって数日後、国本師範から連絡が来る。

国「新しい選手会稽古の場所が決まったぞ」

島「押ー忍、どこですか?」

国「v10野々市や」

島「V10?あのスポーツジムですか?」

国「そうだ、そこにサンドバッグとリングまであるらしい。会費は後援会に出してもらうから、火曜木曜7時からやるから来い!」

島「押忍、わかりました」

火曜日になり、V10野々市に向かう。

ジムフロアに着く。

 

島「ここは・・」

ある!確かにサンドバッグもリングもある!

しかし、このボクシングゾーンの後ろを見渡すと、

普通に筋トレ器具、ランニングマシーンを使って、仕事帰りのサラリーマンやダイエット目的で汗を流しているOLや、高齢者が運動している。

そしてボクシングエリアでも、若い人たちが、「イチ、ニ、イチ、ニ、はいワンツー」と軽く、そして緩やかにボクシングをしている。

「ここで混ざってやるのか・・」

国「島野、よく来たな」

島「師範、普通にたくさん人がいますけど、

本当にここでやるんですか?」

国「そうや!ここは最高だぞ!筋トレもできるし、終わったら風呂も入れる!最高や」

島「押忍、わかりました〜」

 

国本師範について行った選手は、私含めてたったの3人。先輩である、宍戸さんと大浦さん。

いつものようにスクワットをした後、

国「よーし、ではサンドバッグや!」

3人「押忍」

サンドバッグトレーニングが始まる。

 

3人「シュッシュッ」

国「・・どうした、もっと気合を出せ!」

3人「・・押忍!」

3人「・・・・シュッシュ、・・シュッ・・」

国「おい!気合いの声はこうや!」

国「エイシャー!!エイシャー!!」

3人「押忍・・、あの、国本師範、ちょっと周りに人がたくさんいますが、大きな声出して大丈夫ですかね?、ちょっと恥ずかしくて気合いが出ないのですが」

国「そんな事お前達が気にするな、責任は全部私が取る」

3人「押忍、分かりました」

その後、私たちもこれまでやってきた稽古のように、叫び声にも似た気合いの声でサンドバッグを打つ。

当然、

ジムフロア内が、「な、な、何事や!?」と、

明らかに場違いな人たちがここにいますよーという雰囲気になる。

そしてV10のスタッフ達が慌てて、

わーッとこっちに走って向かって来る。

スタッフ達は国本師範に「もう少し声を小さくしてもらうよう」注意のようなお願いをする。

国「大丈夫です、心配ありませんから」

島「(心の声)いやいや、大丈夫ですの意味が分かりません!声出してる私もちょっと恥ずかしい!)

それでもスタッフが静かにするよう食い下がるので、気合いの声は小さめに、というところで落ち着く。

最初は「シュッシュ」と小さめながらも、やはり段々とテンションが上がると「もっと気合いを出せ!」と師範が叫び、私たちもそれに応える。

「国本師範について行く、恩義を忘れず忠誠を誓う」私達にとって、ここまで来ると、

「もうどうにでもなれ」という気持ちになりました。

サンドバッグトレーニング後は、組手。

国「よーし、次は組手だ、リングに上がれ」

リングは、当然よじ登って入るので、フロア内では1番高い位置になる。

3人しかいないので、1組だけの組手になり、1人は見学。

国「準備はいいかー、はい、はじめー!」

組手「オラァ!オラァ!、エイシャーエイシャー!」

 

健康目的に運動している穏やかな空間に、

突如、リングの上で大の大人が思いっきり殴り合う殺気だった空気感がジム内を包む。

さらに素手で「ドスン、ドスン」と、人のお腹や肩周りを殴る時の鈍い音までもフロア内に響き渡る・・

当然、フロア内が「こ、こ、今度は何や!?」

とざわつく。

遠くからスタッフが全員出てきて、

こっちを怪奇な眼差しで見ている。

 

とりあえずそのまま稽古は終了。

国「よーし、いいぞ、これからここでやっていくからちゃんと頑張るぞ」

ここで稽古してみての感想は、

「絶対に出禁になる・・」

そう確信していました。

しかし、次の週、その次と月日が経つも、なぜかクレームは来ませんでした。

さらに、いつからか、稽古で組手の時間帯になると、他の会員さん達がリングの外を取り囲むようになりました。

そう、私たちが本気で殴り合っているのを楽しみに見物する人達が出て来たのです。

そうなると、スタッフ達も何も私達に言えなくなる流れになりました。

そんな事よりも、私含めて3人の選手の気持ちとしては、

「分裂したからといって、石川支部の選手層が薄くなったと言われたくない」想いは同じでした。

とにかく必死でサンドバッグを殴り続け、周りの目も気にならなくなるほど目が血走って稽古をし続けたのが、

V10の一般会員さん達の、

「胸の奥にある、何か高ぶるもの」に触れたようです。

それから、異様な光景から始まった選手会稽古が、いつしか周りの会員達まで熱狂するような空気感に変わるようになりました。

 

さらに数週間経ち・・

ある日の稽古後、私たちの元に、ある会員さんが訪ねて来ました。

「私に君たちの筋トレを見させていただけませんか?」

 

つづく

 

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